東日本大震災以前の調査では,津波後に沿岸部での居住を始めた世帯のおよそ7割が津波の危険性を認識しており,その約半分が防潮堤の存在が居住選定に影響を与えたと回答している.これは行政による見解を裏付けるものともなった.被災者が原地復帰した理由として宅地不足を挙げている事例があった.田老町のように,地勢上の理由により利用可能用地が限られている津波常襲地域では,防潮堤の存在が大きい.防潮堤の有無により地区として転入世帯が増えたことは大きな意味がある.その一方で,防潮堤の津波抑止能力を過信するのは避けなくてはならない.調査結果からは,客観リスクと住民の主観リスクの対応に大きな隔たりは見られなかったが,津波に対する適切な情報提供や教育は今後も欠かせない.