昭和の津波後に高所移転したにも関わらず,沿岸部に戻ってしまった世帯の理由として,居住環境の悪さ(日当りや狭さ)を挙げる被験者もいた.2004年インド洋津波後の復興過程においても,仮設住宅あるいは恒久住宅の居住環境の質の問題が指摘されている.1933年昭和大津波後と現代とは社会情勢が大きく異なっている.どのような時代にも対応できる普遍的な復興施策策定は困難であるし,公的な経済的支援にも限界がある.しかしながら,少なくとも現代は当時と比べて成熟しており,知見も蓄積されている.今後,日本における津波常襲地域の事前復興計画などを作成する際には,居住環境の良し悪しも高所居住の持続性に影響することを考慮する必要があろう.
また沿岸部における津波危険性と,山間部における土砂災害の危険性のジレンマがあることも明らかになった.人口増加にともない,居住用地の不足が問題になるとすれば,津波避難ビルとしても機能する中層集合住宅による解決も一案である.